外科系診療部門 外科・消化器外科

鏡視下手術は、腹腔鏡や胸腔鏡と呼ばれる直径2~10mmの細長いカメラスコープを体に挿入し、鏡視下手術専用の特殊な器具を使い、モニター画面を見ながら行う手術です。 身体に大きな傷を付けずに行うことができるため、傷跡も小さく目立たず術後の痛みが少なくなるとともに、術後の早期回復、社会復帰ができる「やさしい手術」といわれています。 このため、急速に普及してきている手術ではありますが、手術中の視野が2次元のモニター画面上であるなど、特殊性が非常に高く、高度な技術を要する手術でもあります。 決して簡単な手術ではなく、また、この手術特有の合併症があることも理解しておく必要があります。 当院には、各領域に鏡視下手術を行うことができる医師が勤務しております。また、多職種が協力して技術向上を図り、多領域にまたがる疾患にも対応しています。「このような病気に鏡視下手術はできないか」など、ご相談や疑問がありましたら、お気軽に受診してください。 |
◆具体的には…(腹腔鏡手術の場合)
・おなか(腹腔内)を炭酸ガスでふくらませる。
・内視鏡を挿入するための切開(10~30mm)を行い、おへその周囲から直径2〜10mmの細長い内視鏡を手術部位に挿入する。
・鏡視下手術専用器具を挿入するための切開(5~30mm)を数ヶ所行い、当該箇所から専用器具を挿入し、テレビモニター上に映し出された映像を見ながら手術を行う。
・麻酔は主に全身麻酔を用い、呼吸、循環の監視下で手術を行う。


◎従来の手術では20~30cm程おなかを切開(開腹)していたのに比べ、傷が小さく済むことが最大の特徴です。
◎鏡視下手術は健康保険が適用されています。
【開腹腹手術への移行について】
鏡視下手術の開始後であっても、以下のような場合は患者さんの安全を守るため、開腹手術に切り替えることがあります。
・患者さんが以前に受けられた腹腔内手術や腹腔内の炎症の影響により癒着が認められる場合
・術中に出血があり、止血が難しい場合
手術による身体への負担が比較的軽いため、手術後は開腹手術より患者さんにとって楽な場合が多いですが、決して簡単な手術ではありません。 患者さんには、主治医の説明の下、鏡視下手術のメリット・デメリットを十分に理解し、納得して手術を受けていただけるようご説明しています。 【メリット】 ・切開部位が小さく、術後の痛みが比較的軽度ですむ。 ・傷が小さく、美容的に優れる。 ・術後の早い時期から歩行や食事ができる。 (開腹手術に比べ臓器が空気に触れることが少なく、腸運動の回復が早くなります。 このため、ほとんどの場合、手術翌日から食事をとることが可能です。) ・腹腔内で炎症が起きにくいため、術後の癒着がなく、腸閉塞になりにくい。 ・回復が早いため、入院期間が短くなり、早期の職場復帰、社会復帰が可能となる。
【デメリット】 ・モニター画面を見ながらの操作となるため、術中の視野が狭く、高度な技術を要する。 ・手術操作の制約のため、手術時間が長くなる。 ・腹腔内に炭酸ガスを入れる必要があるため、呼吸と循環に影響を与えることがある。 (高炭酸ガス血症や不整脈など)
おなかを炭酸ガスでふくらませて手術を行うため、特有の合併症が起こりうる場合があります。 1. 心臓、肺への負荷 腹腔内圧、気道内圧が上昇し、循環血液量が減少するため、心臓や肺に負担がかかります。術前検査で心肺機能に異常がないかチェックし、手術中は腹腔内圧、気道内圧を測定しながら手術を行います。 2.下肢静脈血栓症、肺塞栓症 足の静脈に血栓(血液のかたまり)ができることを下肢静脈血栓症、また、血栓が肺に達し、肺の血管に詰まることを肺塞栓症といいます。肺塞栓症は致命的な場合がありますが、その発生頻度は0.1%程度と言われています。それらの予防策として、患者さんには足に弾性ストッキングを履いていただいています。 3. 高炭酸ガス血症 血液中の炭酸ガス濃度が高くなることがあるため、手術中に不整脈を起こすことがあります。その対策として、呼気中や血液中の炭酸ガス濃度を見ながら手術を行います。また、極めてまれではありますが、血液中に炭酸ガスが入り込むガス塞栓を起こす場合があります。 4. 術後肩痛 手術を受けた方の3割程度に起こりますが、軽度で数日で消失することが多いです。 |
手術・処置名 | 件数(平成29年実績) |
---|---|
腹腔鏡下ヘルニア手術(大腿ヘルニア) | 1 |
腹腔鏡下胃切除術(悪性腫瘍) | 6 |
腹腔鏡下胆嚢胞切開術 | 1 |
腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術 | 26 | 腹腔鏡下結腸切除術 | 3 | 腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術 両 | 10 |
腹腔鏡下胆嚢摘出術 | 54 |
腹腔鏡下虫垂切除術 | 14 |
腹腔鏡下直腸切除・切断術 | 14 |
腹腔鏡下副腎悪性腫瘍手術 | 1 |
腹腔鏡副腎髄質腫瘍摘出術 | 1 |
Q.希望すれば誰でも鏡視下手術を受けられますか? A.鏡視下手術は直径2~10mmほどのカメラで行うため、手術の際に見える視野が限られています。その為、内臓脂肪が多かったり、腹部手術の既往歴など癒着の激しい場合は、初めから開腹手術になることがあります。また、患者さんの安全のため、手術の途中から開腹手術に移行する場合もあります。 |
Q.鏡視下手術は、どこの病院でも行える手術ですか? A.鏡視下手術は、光学機器類を始めとする最新の器具類を揃えている病院であることはもとより、それらを間違いなく使いこなし、不測の事態にも迅速に対応できる外科医の存在が必要となります。当院では、この新しい手術方法に精通した、高度な技術を持つ医師が日々研鑽を重ね、患者さんの診療にあたっています。 |
Q.鏡視下手術では、本当に手術あとが残らないのですか? A.手術のあとが全く残らないわけではありません。しかし、従来の手術のように手術部位を大きく切開するのではなく、身体に直径5~30mm程度の穴を数ヵ所あけて、そこからカメラや小さな鉗子類等の器具を挿入し手術を行います。また、開腹術のように縦に切開せず、横向きの切開を用いるので、手術あとはほとんどわからなくなります。 |
Q.かかりつけ医は近所の診療所なのですが、鏡視下手術は受けられますか? A.中部ろうさい病院では、地域の医療機関と連携を取り、患者さんのニーズに応えられる体制を整えております。直接、当院の外来を受診されても構いませんが、その場合、診察や検査を最初から行っていただくことになり、患者さんへの負担も増えてしまいます。余計な検査や重複する検査を省き、迅速な対応をさせていただくためには、事前にかかりつけ医の先生とよくご相談いただき、紹介状をお持ちいただくか、当院の地域医療連携室を通して紹介していただくことをお勧めしております。ご不明な点がありましたら、当院の地域医療連携室へご相談ください。 |
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